小さい頃、パンダと言えば、ランラン・カンカンでした。
上野動物園に行けはいつも長者の列。ゆっくりと見ることは出来ず、ベルトコンベアーのように「ハイ、止まらないで~」と流されながらチラッと見るだけ。親に抱えてもらって人と人の間からやっとすこーしだけ見える姿を一瞬見る、という感じ。
そんな時代だからこその、夢のような出来事が、小学生のある日に起きました。

それは、クラスメイトのNさんが言い放った一言。
「わたし、パンダの赤ちゃん飼ってるの。」

さすがに小学生の頭でも怪しい香りは感じ取りましたが、
でも、いつも、一度でいいからゆっくりと存分にかわいいパンダを見てみたい・・・という願いをグッと心にしまい込んで上野動物園の人ごみに流されていた当時の子供たちは、「でも、もしかしたら、もしかしたら本当かもしれない・・・。」と、この夢のようなシチュエーションを信じてみたくなったのでした。
そして放課後、何人かでNさんの家にパンダを見せてもらいに行ったのでした。

居間の真ん中にコタツ。コタツには何もいません。
「あれ?おかしいな。いつもはこの辺に寝ているんだけど・・・。」
Nさんはコタツの座布団を指さして首をかしげています。
ああ。やっぱりいなかった。普通の家に、いるはずないよね。
そう冷静に思いつつも、コタツの座布団にかわいいパンダのあかちゃんが寝そべっている姿を想像して夢の世界に飛んでみたり・・・。
その日その後どうしたのかは全く覚えていませんが、どの子も、そんな想像をしながらぽーっと家に帰ったのだと思います。

今思い出しても、「あの夕方は何だったんだろう・・・」と思う、3年生か4年生のころのある日の出来事。
フワフワと半分夢の中に住んでいるような、小さな頃のちょっと楽しい思い出です。
(実話)

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最近、上野動物園のパンダの赤ちゃんが生まれてからパンダの姿をテレビやwebで見ることが多いので、そんな時たまーにこのエピソードを思い出すと楽しくなってしまいます。